★のほほん田舎暮らし!★

自作のパンやケーキのメモと日々の何気ない小さなことを書いてます。

読売新聞抜粋

とても興味深い記事が目についたので、ここに載せます。
沢山の方に、この記事を読んでいただきたいと思ったから…



認知症の精神科入院治療、遣る瀬ない「現状」とは

 「これを“治療”と言っていいのかと、日々ためらってしまうばかりで――」


 入院のために来院した認知症のお年寄りを尻目に、ご家族に認知症病棟で施される治療について説明する段になると、決まって逡巡し、口ごもる。

 認知症が進行すると、徘徊による迷子や近所への家宅侵入、真夜中の大声、暴言や暴力、所かまわずの失禁や弄便(ろうべん)など、激しい症状に至ることが少なくない。高齢なだけに、大方、軽からぬ身体疾患も合併している。日夜介護に明け暮れるご家族の心労たるや、筆舌に尽くしがたい。訪問医療を導入しても自宅介護に行き詰まり、施設入所にこぎつけても、職員の手に余ることもしばしばで、八方手を尽くした先、やむにやまれず精神科病院にたどり着く。

 ご家族も施設職員も皆困り、疲れ果てている。精神科入院治療に託さざるを得ず、罪悪感に打ちひしがれている。そこに追い打ちをかけるように、認知症の入院治療の「現状」を説明しなくてはならず、治療者としても、ただ遣やる瀬ない。


「適応外使用」の功罪と身体へのリスク

 現状説明は、こうだ。


 「認知症に伴う激しい症状への治療は、薬物療法が主となります。『鎮静をかけて症状を抑える』という方法を取らざるを得ず、活気を損ねず症状のみを消退させるのは、現状では困難です」


 薬物療法の限界についてそう伝えると、ご家族は大方、落胆してしまう。しかも、「抗精神病薬」「気分安定薬」という、統合失調症気分障害に向けた薬を使って認知症の症状を治療するため、本来の治療対象とは異なる「適応外使用」となってしまう。


 「認知症にそれらの薬を『適応外使用』すると、心疾患、脳血管障害、感染症などによって、死亡率が2倍高まると知られています。でも、使わざるを得ないのです」


 寒々とした説明は、それに留とどまらない。


 「足元がおぼつかないまま徘徊し、転倒のおそれが著しい、他の患者の病室に出入りして治療を妨げる、暴力が激しい、といった時には、鍵のかかる個室に隔離したり、抑制帯で身体を拘束したりしなくてはならないことがあります」

 「薬物療法による鎮静、身体拘束のために、筋力や意欲、活動性や動作性が落ちてしまうことが、まれではありません」


 身体の健康へのリスクを冒してまで、精神症状を鎮めなければならないという矛盾にもかかわらず、これを「治療」と言ったものかと、説明するそばから愁い、切なくなる。


早期に手立て講じても…行き詰まり精神科入院

 実際の入院治療では、鎮静が行き過ぎないように日々経過を追い、突発する症状には人手を介し、柔らかく口添えし応対している。もちろん、身体拘束は最後の手段だ。「適応外使用」が奏功し、「鎮静」と「症状の抑制」の「間あわい」をかき分け、薬物を調整できることもまれではない。しかし、大方は一筋縄ではいかない。

 「ドネペジルに加えて、リバスチグミンやメマンチンと、『抗認知症薬』の選択肢が増えてきた。認知症を早期に発見すれば、治療することが可能だ」という、まるでキャンペーンかのような言説を目にするようになった。抗認知症薬について事前に調べ尽くし、望みを託して処方を訴えるご家族も少なくない。しかし、それらの効果がいくばくのものか、どれだけ適切に伝えられているのだろうか。

 「正常圧水頭症」など、早期発見が要である認知症もあり、油断はできない。しかし、早期に手立てを講じたにもかかわらず、精神科病院に行き着かざるを得なかったという、現実の重みが累々としていることも、知っていただかざるを得ないだろう。

 また、「認知症のお年寄りが住みなれた地域で暮らせるよう、支援計画が緒に就きつつある」といった、希望に満ちた掛け声が際立つ割に、現状は発展途上も甚だしい。

 今、ここで、苦しんでいる当事者、ご家族は、待ったなしだ。甘言には裏切られ通しだ。悲しみは深い。現実を、そして、具体的な手立てを知りたいのだ。

 激しい症状の治まる気配のない認知症のお年寄りを抱え、施設からも退所を迫られ、行き詰まってしまったご家族にお伝えしたい。


 「もう十分、手を尽くされました。共倒れになっては手遅れです。罪悪感をいったん横に置き、精神科入院治療に託していただき、ひとまず重責だけでも荷降ろししてはいかがでしょう。至らぬ治療しかできないかもしれません。しかし、共に悩むことはできます。『行く末』を具体的に模索していきませんか」


(2014年6月3日 読売新聞)
精神科医 寂凡(しずなみ)氏のコラムより